金蹴り超訳・傾城水滸伝

前 説



 さてお立ち会い。
『水滸伝』といえば、中国が南宋と呼ばれていた頃(一一二七〜一二七九年)、宋江なるものが三十六人の仲間と反乱を起こした史実をもとに、数多くの講釈師によってふくれあがり、十四世紀の施耐庵(したいあん)なる作者によって、一〇八人の好漢が腐敗した王朝相手に大暴れし、国家のために外敵と戦う一代叙事詩にまとめられた中国四大奇書(『西遊記』『三国志演義』『金瓶梅』)の一つ、長年、アジア圏で大人気を誇ったた大河ロマンであります。
 日本では十八世紀頃に翻訳され、たちまち大人気を博しました。特に、『南総里見八犬伝』『珍説弓張月』などの長編伝奇小説で知られる曲亭馬琴(一七六七〜一八四八)は多大な影響を受けたと言われております。
 曲亭馬琴は、二十八年がかりで完成させたライフワーク『南総里見八犬伝』執筆中に失明したのですが、それでもなお五十八歳にして、一人息子の妻である十九歳のお路(一八〇六〜五八)を相手に口述筆記を始めたのが、『水滸伝』のキャラクターをすべて女性に置き換えた『傾城水滸伝』(一八二五〜三五年)だったのです。
 私は、子どもの頃、横山光輝氏のマンガ『水滸伝』(全8巻、潮出版社)や、そのマンガが原案になっているドラマ『水滸伝』(一九七三〜七四、日本テレビ、中村敦夫主演)で『水滸伝』の世界を知りました。その後、大学で国文学を学んでいる折り、『傾城水滸伝』の存在をしり、ぜひ読んでみたいと思いつつ、なかなかその機会がなかったのですが、最近、『傾城水滸伝』全文を読みやすく掲載しているサイトの存在を知り(『傾城水滸伝』をめぐる冒険 http://blog.goo.ne.jp/keiseisuikoden)、念願かなって全貌を知ることができたのです。
 そして、いきなり第二編で、花殻の妙達(原『水滸伝』の花和尚魯智深)が、いきなり悪女の男妾の金玉を蹴って失神させるシーンに大興奮、これを是非、BB(Ballbusting)小説として翻案したいと思い立った次第です。
 結果的にタイトルを「超訳」としたのは、最初は『傾城水滸伝』の世界を忠実に訳し、多少金蹴り玉潰し要素を入れるだけの予定だったのですが、なにせ原作が江戸時代の封建思想の価値観で貫かれているのに納得がいかない部分が増えていき、思い切って、自分好みの物語として大胆にアレンジすることにしたからです。
 近年、北方謙三氏による『水滸伝』シリーズ(集英社文庫)が完結するなど、根強い人気を誇る作品ですが、陳舜臣氏が『ものがたり水滸伝』(中公文庫、絶版)で「水滸伝には中国人の夢がこめられている」と喝破された伝でいえば、この多彩な登場人物による波瀾万丈の物語に私なりにこめた夢を、共有していただければ幸いです。
                                               (二〇一六年十二月十日/KEKEO記)


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